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Panasonic のネットワーク分析(ONA)を活用した組織開発方法

2022-07-04
Panasonic のネットワーク分析(ONA)を活用した組織開発方法

ONA (Organization Network Analysis:組織のネットワーク分析)は、従業員同士のメール・チャットなどの行動データと従業員属性情報を組み合わせることにより、(1) 離職の予兆のリスク検知、(2) リモート環境下でのマネジメント向上(3) 活躍人材の早期発掘など、従来の手法では対処が困難であったテーマに対しても示唆を得られるアプローチとして、近年注目されるようになりました。一方で、組織・人材開発課題に対する具体的な活用方法に関しては、まだ実践的な事例はほとんど確立されていない状況です。

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社では、2022年3月よりパナリットが提供するONA* を導入することにより、サーベイのような従来の手法だけでは得られなかった組織課題を特定することができました。更には今後発生するであろう、どのような組織・人材開発の課題にもONAの活用余地がありそうか、お話を伺いました!

ONAについて詳しく知りたい方はこちら

* パナリット独自のデータ処理特許出願中

インタビュイー

パナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社 リクルート&キャリアクリエイトセンター

● 坂本 崇 様:     企画部 戦略企画課 課長

● 宮谷 将太 様: 企画部 戦略企画課

● 志鶴 友香 様  企画部 戦略企画課

※所属部署は取材当時のものになります

目次 

RCCの現状とこれまでの組織開発のための施策

(敬称略)

トラン:リクルート&キャリアクリエイトセンター(以下RCC)の変遷について教えてください。

坂本:

RCCは、主に「人材獲得」と「社員のキャリア自律支援」のサービスを提供する部門です。2017年までは人材獲得と社員のキャリア自律支援は別々の部門で活動していましたが、部門間の相乗効果を期待して合併しました。

また、2022年4月にパナソニックグループは持株会社制へ移行しました。2021年度までの社内カンパニーが株式会社として独立しました。その株式会社のひとつに我々が属するパナソニック オペレーショナルエクセレンス株式会社(以下PEX)があります。PEXの役割は各領域のプロフェッショナルが連携し、お客様のオペレーションの高度化・効率化に貢献し続けることです。お客様にはもちろん、パナソニックグループ内の事業会社を含みます。この体制変更に伴ってRCCはこれまでのシェアドサービス提供部門でなく、社外の企業との競争環境にさらされる一事業体に変化する必要が出てきました。

トラン:

新生RCC をどのように変革していきたいとお考えですか?

坂本:

これまで行っていた人材獲得とキャリア自律支援のそれぞれを点でとらえるのではなく、事業会社の経営戦略実現と社員のキャリアジャーニーを充実化させるトータル人材ソリューションを提供していきたいと考えています。また、お客様からの要望に受動的に応えるだけでなく、我々から事業会社の経営戦略を成し遂げるためのリソースマネジメント戦略を主体的に提案していく事業体に変わろうとしています。

トラン:

その目標達成のために、一番課題だと感じていることはなんでしょうか?

坂本:

人材獲得を担う採用部とキャリア自律支援を担うキャリアクリエイト部が、合併前と変わらず別々に独立して仕事をしていることを課題と捉えています。これまでは部署間連携が少なくても業務が成立していたため、部署を超えたコミュニケーションが少なく、相乗効果が生まれていません。

RCCではそれぞれの領域のプロフェッショナルが集まってはいるのですが、特定の領域の仕事に取り組むだけでなく、今後はお互いが持つ強みを活かして刺激のある仕事ができるようになればと思います。

そうでなければ、ポテンシャルが高く、変革マインドを持っている人が、定着しなくなってしまいます。そうした人材は得てして異端と見られてしまったり、組織にうまくはまらずに辞めてしまうことも多いです。

トラン:

その目標・課題に対して、この1−2年でどのような施策を行い、どのような結果が得られましたか?

坂本:別々に仕事をしている採用部とキャリアクリエイト部、そして我々企画部の組織間交流を高めるため、お互いの仕事内容の理解を促進する施策を打ちました。また、組織の結束を高めるため、RCC全体のミッション、ビジョン、クレドを制定しました。

意識的な働きかけによって、ミドルマネージャー間では少しずつ交流が進んでいると感じています。しかし、まだ部署を越えた交流の必要性をそこまで重視していないマネージャーもいるように思いますし、交流は生まれたとしても自分たちの部署で完結する仕事が中心のため、スキル面や人材面での部署を越えた入り混じりは進んでいません。

トラン:

去年からパルスサーベイにも取り組まれていますよね。こちらは、元々どのような経緯で始められたのですか?

坂本:

社歴が比較的短いメンバーとマネージャー間でのコミュニケーションを改善し、モチベーションを向上させることを目指して導入しました。また、トータル人材ソリューションを目指す上では、メンバー全員が新しいサービスやオペレーションの改善点を主体的に考えることが不可欠ですが、モチベーションが低ければ主体的な行動は起きないと思います。「やれと言われたことだけをやる」といった受動的な姿勢を打破するうえで、モチベーションは RCC の中でより重要な要素になると思っています。 

トラン:

パルスサーベイ導入の効果はいかがでしたか。

坂本:

毎月フィードバックが返ってくるので、マネージャーがメンバーの状況を把握することはできるものの、サーベイを通じて明らかになった課題の解決にはあまり手をつけられていませんでした。また、サーベイ結果のレビューにおいても、マネージャーの経験や感覚をベースに考えているため、必ずしも課題を正確に特定できていたとも思えませんでした。そのため、客観的なデータによる裏付けを求めていました。

ONA導入後の変化点と、新たな気づき

トラン:

ONAについてお伺いします。「客観的なデータによる裏付け」の1つとしてパナリットの新機能であるONAを導入されてから、従来のパルスサーベイ一本のアプローチと比較して、何が変わったと思われますか?

宮谷:

組織課題における要因仮説の妥当性が高まったと思います。例えば、主観的な仮説の一例として、「パルスサーベイでモチベーションが低いメンバーは、他のメンバーと交流できておらず孤立しているのではないか」、逆に言うと「多くのメンバーと交流していれば、そのメンバーのモチベーションも高いのではないか」という仮説があります。しかし実際にONAで可視化された結果からは、「孤立しているように見えるが、高いモチベーションを維持している」社員もいれば、逆に「組織の中心にいて他部署を含む多くのメンバーと交流しているが、モチベーションが低い」社員がいることも見えてきました。

前者のケースでは、特定のメンバーとのやり取りで業務が完結している場合にそのメンバーとの相性さえ良ければ大変仕事がやりやすいため、高いモチベーションを維持できているのかもしれません。一方、後者のケースでは他部署の業務にまで駆り出されることでコミュニケーション量が爆増することで、燃え尽き症候群のようになってモチベーションが低下してしまったのかもしれません。自己申告ベースのパルスサーベイの回答だけでは解釈を誤りうる事象に対して、客観的に分析できるようになったのがONA導入後の変化点だと思います。

トラン:

パルスサーベイだけだと、どうしても主観性が排除しきれなかったということですね。

宮谷:

はい、そう思います。あと (マネージャーの)坂本さんから見える私のコミュニケーションは、坂本を含むコミュニケーションのみです。他の部署のメンバーと私が連携して行っている業務の細部までは見ることができません。仮に、そのような業務で負荷がかかっていたとしても、私が声を上げない限り気づくことは難しいと想定されます。このように、マネージャーが直接関与していないコミュニケーションを可視化できることも、課題要因の特定に役立つと思います。

トラン:

マネージャーも自分が関わっている範囲以外のことは、俯瞰的なデータがないと気づきようがないですよね。特に、コロナ禍でオンラインのやり取りが増え、尚更見えにくくなっていそうですね。

他に固定観念が覆ったような気づきはありましたか?

宮谷:

マネージャーがメンバーと充分なコミュニケーションを取り、良質な関係性を築けているかどうかと、マネージャーから見た各メンバーの期待達成度の相関が小さかったのは意外でした。マネージャーは接点が多いメンバーを高く評価するのではないかと思いこんでいたので、直感と異なる結果でした。これは、コミュニケーションの頻度や双方向性(※一方通行的でなく、タイムリーにキャッチボールができている状況)が表面的には健全に保てていたとしても、マネージャー・メンバー間での期待値調整には必ずしも直結せず、マネージャー・メンバー間でのコミュニケーションの中身にも改善余地があるという気づきに繋がりました。

トラン:

横や斜めのつながりが多いマネージャーの方が、そうでないマネージャーと比べて、そのメンバーのメンタリティが高いという結果もありましたよね。よくノウハウ (Know How) よりノウフー (Know Who) が強い人の方が価値貢献しやすいとイノベーション理論などでも言われますが、それを部分的に裏付けている結果であったように思います。

坂本:

私は、ONAでマネージャーの動きを見ていると、自分のためだけに仕事をしているのか、メンバーのことも考えて仕事をしているのかが、見えてくると思います。例えば、自分の傘下の社員とのやり取りは自分のためと考えられます。しかし、直接の指示系統ではないメンバーとのやり取りはいかがでしょうか。一概に言い切ることはできませんが、そのメンバーのためにメンタリングの時間を取っていると推測することもできます。業務上では一見必要ないつながりを見ることで、メンタリングが上手なのかもしれない、部署間連携を仕掛けようとしているかもしれない、実は組織を円滑に回しているが本人もマネージャーも気づいていないようなキーパーソンかもしれないなどの仮説を立てることができるのではないでしょうか。

トラン:

面白いですね。良い意味で想定と違う動きをした人の行動やつながりから、組織・人材開発の次のヒントを得るという発想は、ONAの理想的な使い方だと思います。

坂本:

ただし、データの見方を上手にガイドしなければ、成果にはつながらないと思います。画一的で万能な使い方はありませんし、下手をするとバイアスに繋がりかねないデータでもあると思います。その危険性を理解したうえで、自分たちで常にデータ活用のあり方を改善することが必要と感じています。

トラン:

データから見える「事実」と、そこから何を読み取って施策に活かすべきかの「真実」は異なるからこそ、客観的なデータという共通言語を皆で見ながら議論を深めることが重要ですね。

ONAを使って今後展開したい施策

トラン:

今後 ONA を活用して、他に取り組んでいきたい課題やテーマはありますか?

坂本:

コミュニケーションの質の向上に繋げたいですね。ONAを活用してマネージャーにコミュニケーションスキルを磨いてほしいと思っています。質とはメンバーの満足度を指します。例えば、1on1の後に「マネージャーが自分の話をちゃんと聞いてくれたか」といったアンケートをとり、肯定的回答率とONA(で可視化できるコミュニケーションの頻度や双方向性)を掛け合わせて分析することで、コミュニケーションスキルを可視化する分析ができると思います。

マネージャーの中には、自分のコミュニケーションスキルに自信を持っている人もいるかと思います。しかし、満足しているとそれ以上の成長は見込めません。マネージャーに対して客観的なデータを示すことで、どうすればメンバーとの関係性を良くできるかを考えるきっかけになると思います。

志鶴:

マネージャー・メンバー間の関係性の質を向上させるためには、メンバー一人一人のことをよく知った上で、それぞれのメンバーに適したコミュニケーションをとることが大切だと思います。例えばマネージャー全員に対してメンバーに対するコミュニケーションの型を展開しても、おそらく効果がないでしょう。多種多様なメンバーにあわせて、コミュニケーションを変える必要があると思います。

宮谷:

例えば、関係性スコアが同じような変化をしたとしても、モチベーションへの影響は人それぞれです。ONAとパルスサーベイを継続的に見ていくと、なぜその違いが出たか、その人の価値観などを推測することができます。個々のメンバーを知ることにより、マネージャーがより良いコミュニケーションをとれるようになるのではないでしょうか。

トラン

マネージャーからメンバーに対するアプローチの仕方は、メンバー個人によって本来異なるはずですよね。その後押しになる納得感の高い客観的情報として、ONAのデータを継続的に定点観測する意味があると思います。

坂本:

各マネージャーがメンバーの状況を見るツールとしてだけではなく、マネージャー同士がマネジメントを学び合うためのツールにしていきたいと考えています

まだ実現できている会社は少ないと思いますが、すべてのマネージャーにはコーチがつく必要があると私は考えています。我流のマネジメントでは、スタイルにばらつきがでます。どのようにマネジメントを行えば良いか分からないマネージャーもいると思うので、マネージャー同士で学び合う仕組みを作りたいのです。その学びの材料や指標として、社員同士の関係性を客観的に見ることができるONAは素晴らしいツールだと思います

坂本:

他には、社員同士の横のつながりを増やすきっかけにしたいです。そのためにはマネージャーが他の人を繋いだ後、メンバーに任せきりにするのではなく、もしうまく繋がれていなかったらマネージャーが阻害要因を取り除いてあげなければならない。ONAは、そういった心理的なハードルを察するためのツールにもなると思います。

トラン

「メンバーのある業務を円滑化するためには、別の部署のこの人と繋いであげたらいい」とマネージャーが思い込んでいたけれど、ONAの結果から、他に適任者がいることに気付く可能性もありますね。

坂本:

社員同士の繋がりを意図的にデザインできるとすれば、ONAはかなり画期的なツールです。ノウフー(Know Who)は資産であり、多ければ多い方がいいと思います。ノウフーの少ないマネージャーが組織の上に上がると、組織力が急に落ちると考えています。組織力を落とさないためにも、社員同士の繋がりを可視化して意図的にデザインしていきたいですね

なぜなら我々の業務はものづくりとは異なり、マニュアルを作って渡せばすぐに次の人に業務を引き継げるといった機械的なものではないからです。人との繋がりが業務を推進するうえで大切になります。ONAは繋がりをプランニング(計画)する目的でも、チェックする目的でも使えるツールです。

トラン:

ONAの活用方法についての先行研究を見てみると、ほとんどがチェック(現状把握)に終始しています。プランニングやデザインにも活用していくのは、少なくとも2022年時点では非常に先進的な試みです。

坂本:

マネージャーを新しいポジションに配置したときに、他の社員との関係性がどうなっているかを継続的に見ていきたいです。そのマネージャーの年次評価、360度評価、ONAでわかる指標(ネットワークの多さや幅など)を掛け合わせてレビューしてみたいです。「この役割だから、この人と繋がっているべきだ」というチェックだけではなく、「このような繋がりを築けているから、このマネージャーは役割を全うできているのか」といった形で、ONAのデータを JD(職務要件) やミッションの再定義に使えると思います

トラン

経営陣や他の部課長の皆さんを、どのようにして巻き込んでいきたいですか?

宮谷:

一緒にデータを見て解釈しながら議論できる状態を作るために、まずは坂本の組織のONAデータをパイロットケースとして捉え、我々とパナリットさんでアプローチを検討したいです。ケースを元に経営陣や部課長それぞれのアクションに繋げるサポートをすれば、活用のイメージを抱いてもらえると思います。前半で坂本が述べたバイアスを低減するためにも、正しいデータの解釈の方法はサポートが必要だと考えています。

坂本:

とてもいいアクションプランですね。意図的な変化をデザインするためにも、パナリットさんと一緒にONA分析を続けたいと思います。

パナリットのONAのいいところ

トラン:

パナリットのONAのいいなと思ったところがあれば教えてください。

宮谷:

直感的に触れるUI (ユーザーインタフェース)がオススメできるポイントです。ネットワーク分析と聞くと、ハードルが高く感じるかもしれませんが、一切そんなことはありません。例えば、特定の従業員属性でフィルタリングして参照範囲を絞りたい場合、どのような操作をすれば良いかマニュアルがなくてもわかるほどです。かつ、人間を表すノードと、つながりを表すエッジのシンプルな構成なので、グラフ自体もとても理解しやすいです。

みなさん、本日は大変貴重なお話をありがとうございました!

ONAについてもっと詳しく知りたい方は、👇こちらのページ👇をチェック!✨

組織のネットワーク分析
https://panalyt.jp/org-network/

HRpro トラン チーの連載記事「ONA(Organization Net work)の魔力【4】」
https://www.hrpro.co.jp/series_detail.php?t_no=2023

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