CFO視点での人的資本経営の実践
本記事は、2022年8月30日に開催されたセミナー「CFO視点での人的資本経営の実践」のサマリーです。
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講演者
株式会社デジタルホールディングス グループCFO 加藤 毅之
パナリット株式会社 代表取締役COO トラン・チー
目次
- 変革期にあるデジタルホールディングス社
- ESGが人的資本経営に向き合うきっかけに
- パーパスから紐付け、経営戦略と人材戦略を連動
- データを活用したPDCA
- 過去の失敗事例と推進中の取り組み
- まとめ
- Q&Aコーナー
変革期にあるデジタルホールディングスグループ
加藤:加藤と申します。まずは弊社の状況についてお話しします。弊社は、1994年にFAXを用いたダイレクトマーケティングの会社として始まりました。その後、ネット広告事業へ参入したのち、2020年に主軸事業をデジタルシフト事業へと転換しています。現在、デジタルシフトを通じた産業変革(IX:Industrial Transformation®)を目指しており、一例として、薬局業界の変革を目指して、薬局と患者のデジタルを介した新たなコミュニケーションをサポートし、かかりつけ薬局化の支援を行うLINE公式アカウント「つながる薬局」や、有店舗事業者のGoogleビジネスプロフィールなどデジタルメディア上で公開される店舗情報を一元管理できるSaaS「トストア」などのサービスを提供しています。このように、近年は広告事業に加え、デジタルシフトを推進する事業を立ち上げています。
【図1:デジタルホールディングスグループの変遷】
出典:デジタルホールディングス
デジタルシフト事業への移行に際して、社名を変え、経営体制も刷新し、会社の売却や新規事業の立ち上げも多く行いました。それに伴い、多くの社員の異動や、リスキリング、モチベーション管理などさまざまな問題に直面しながら経営をしています。このような変革の真っただ中で、どのように人的資本経営と向き合って来たかというのが、今回のお話です。
ESGが人的資本経営に向き合うきっかけに
加藤:私たちが人的資本経営に向き合うようになったきっかけは、2020年12月の投資家とのミーティングでした。そこでESGの重要性について対話を行ったことをきっかけに、IRチームが中心となって取り組みを開始しました。そして半年後の2021年5月には、役員4人を巻き込み、マテリアリティを発表しています。
それからは、マテリアリティ実行のためにESGステアリングコミッティを発足し、スキルマトリクスの発表、ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン(DE&I)室の立ち上げ、ダイバーシティに向けた取り組み、日本全国どこでも自由に働ける環境を提供する「どこでもワーク」や男性育休としての当社独自の取り組みである「チャイルドケア休暇」など、デジタル時代に合わせた新たな施策として「働き方のタネ」プロジェクトの始動など、現在に至るまでいろいろと取り組んでいます。その中で、私たちは「人材の育成」と「多様な働き方ができる環境の提供」が重要課題だと位置づけました。私自身もこの課題の設定をきっかけに人的資本経営に向き合うようになりました。
ESGがきっかけで人的資本経営に取り組むことになった私は、人的資本経営を、「人的資本を通じて、フリーキャッシュフローを上げて資本コストを下げて、リスクを低減すること」に他ならないと考えます。
【図2:ESGと人的資本経営】
出典:デジタルホールディングス
ESGでは、フリーキャッシュフローを上げ資本コストを下げることが、結果的に企業価値向上につながると考えます。その企業価値というのは、IIRC(International Integrated Reporting Council:国際統合報告評議会)のフレームワークに当てはめると、この5つの資本に分解され、そのうちの1つが人的資本です。つまり、人的資本への投資により、会社のキャッシュフローを上げて、資本コストを下げること。これが結果的に企業価値の向上につながるということです。
パーパスに紐付け、経営戦略と人材戦略を連動
加藤:人材版伊藤レポートでは、人的資本経営をする上で大切な3つの視点と5つの要素が示されています。中でも、経営戦略と人材戦略の連動が、非常に重要だと感じています。足し算ではなく、掛け算にしていくためにはどうすればいいのか。経営戦略と人材戦略、そして戦略に紐づく施策をしっかりと結びつけることが非常に重要だと感じています。
弊社はパーパスとして「新しい価値創造を通じて産業変革を起こし、社会課題を解決する。」と掲げています。そのために、広告事業からデジタルシフト事業へのピボットを強力に促進する「グループDSイノベーション2023」というグループ戦略を遂行しております。
この戦略実行に向けて、重視するKPIが2つあります。1つめは、IX事業(デジタルシフト事業の産業変革につながる新規事業領域を指す)の売上成長率を400%以上にすること。2つめは、広告事業の営業利益率を5.1%以上にすることです。2つめの広告事業の収益率改善は、私たちが長年軸足をおいてきた広告産業におけるビジネスモデルと労働環境の変革に対する挑戦であり、1つめに示したIX、すなわち産業変革への挑戦に投資するための土台づくりでもあります。
【図3:パーパスからの紐づけ】
出典:デジタルホールディングス
これらのグループ戦略・KPIの達成のため、デジタルシフト事業では、開発力を強化してIXにヒト・モノ・カネすべてのリソースを集中させる戦略を、広告事業では、顧客ポートフォリオと営業から社内オペレーションまでの広範囲で業務プロセスを変更して収益率を改善する戦略をとっています。また、事業戦略を支える人材戦略として、変革人材の採用・育成・抜擢、及びそれらを支える制度・システムをつくっています。これらの戦略に共通して言えるキーワードは、「変化・変革」です。この「変化・変革」というキーワードを戦略、さらには、施策に紐づけました。
【図4:事業戦略への落とし込み】
出典:デジタルホールディングス
戦略とKPIの設計が終わり、ありたい姿に向けてどのように進めたかをお話しします。
当初、広告事業の人材ポートフォリオの中心は、提供サービスにカスタマイズを多く必要とする大型顧客でした。顧客の要望に応え、付加価値を提供することが評価されるシステムだったので、フロント営業人材の比率は少なく、専門人材であるスペシャリストを多く擁していました。大型から中堅に顧客層をシフトするには、一人の営業がより多くの顧客を対応する必要があるため、カスタマイズ中心だったものをどの顧客にも共通して付加価値が高いといえるサービス内容で型化し利益率を上げることや、営業利益率を起点にした評価制度を設けることで社員一人ひとりが生産性向上の意識を持つことが必要です。この結果により生み出されるのは収益改善のみならず、人材スキルアップへの還元が大きく、顧客へのさらなる付加価値の創出につながります。このように戦略に紐づき、人材のポートフォリオや、評価制度システムを変えてきていました。
デジタルシフト事業に関しても、当初はリソースが不足していたので、事業責任者を採用するために従来型とは違ったインセンティブを設計したり、自社の中でどんどん新規事業が立ち上がるよう、制度の設計や、文化醸成にも改めて注力しています。さらには広告事業からデジタルシフト事業に、人材がスムーズに異動できるよう制度を整える必要もありました。
データを活用したPDCA
加藤:広告事業において、営業利益率を起点にした評価制度の妥当性を判断するために、営業人員比率と営業利益率の関係性をデータで検証しました。営業人員比率を高めると、営業利益率もある一定のところからぐいっと上がったことがわかりましたので、またもう1段階踏み込んで営業比率を高めました。戦略を実行する際には、しっかりとデータを見ながらPDCAを回すことが重要と考えております。
【図5:人的資本経営への2つのハードル】
出典:デジタルホールディングス
加藤:ここまでくるには幾つもの障壁がありました。例えば、先程のデータ分析PDCAを回すにも、人材関連データは、人事が持っていますし、財務データであればファイナンス、事業KPIは事業会社と、データの所有部署がバラバラでした。真ん中にあるそれぞれのグレーがオーバーラップするようなデータを出そうとすると、手作業でやらなければいけません。定義が属人的になり、ミスも起こる。さらには、それぞれの部署が別会社にまたがっていたりしますので、非常に時間がかかり、なかなかスピーディにPDCAを回せませんでした。
【図6:改善型KPIと適正型KPI】
出典:デジタルホールディングスグループ提供
また、いざPDCAを回してKPIを設定していこうとした時も、KPIの種類や適正値に迷います。退職率や研修受講率やエンゲージメントなどの改善型KPIは、改善するほど良いKPIと言われますが、それでも適正な値はあるかと思います。営業/エンジニア比率、女性管理職比率、外国籍比率、といった適正値がある適正型KPI含め、目標値の妥当性がなかなかわからない。退職率が10%ならいいのか。5%ならどうなのか、と。また短期と長期など、いろいろな角度から見る必要もあります。いずれにせよ、企業価値への貢献をロジカルに説明するのは非常に難しいと思っています。
この2つのハードルを乗り越えるために、人事データ専門のシステムへの投資として、私たちはパナリットを導入しました。なぜパナリットだったのかということも、パナリットさんのセミナーなので少しお話をさせていただくと、導入しやすく、使いながら機能を調整できるということで、非常に導入は早かったんです。KPIの適正値を検証しながら、柔軟に数値の確認や分析ができるという点を重視しました。今日もトランさんがいらっしゃいますけれども、色々と相談できるということで、経営陣含めて、人材のスペシャリストとしてのバックボーンをお持ちの方がいらっしゃり、気軽に相談できるということも、私にとっては大きな決め手になったと思っています。
他社のツールですと繋ぎこみに数カ月かかったり、繋ぎこむ上でいろいろ設計をしなければならなかったりすることが、懸念としてありました。加えて、人的資本経営はまだまだ始まったばかりなので、それぞれの企業のオリジナリティや重要ポイントが変わっていく中で、KPIなどは走りながら随時アップデートできることが望ましいと考えていました。
ツールを導入する際、マスタの整理は全社一括でやるべきだと思いますが、分析に関しては、管掌役員がそれぞれの角度で見たいデータがあると考えています。もし、各人の希望を統一して全ての要件を網羅するツールを導入するとなると、そもそも要件定義だけで半年かかるようなプロジェクトになるとも思われました。パナリットは、各人の希望を網羅できるような豊富な指標数と、柔軟な閲覧権限設計が可能な点が魅力的で、導入を決意しました。導入後、管掌役員それぞれが自分の見たいデータを見られる環境を構築できました。
過去の失敗事例と推進中の取り組み
加藤:色々とお話をしましたが、まだまだ道半ばです。今後に向けてということで、ちょっと失敗事例もお話ししたいと思います。
以前、管理部門の販管費削減と事業会社成長を加速させるため、コーポレート人材を事業会社へ異動し、人員の削減をしたことがありました。しかし、ただ人員を削減するだけで業務量が変わらず、結果的に業務委託外注が増えていってしまいました。
よくよく考えればあたりまえのことだとは思いますが、KPIありきで動いてしまうとこういったことが起こってしまいます。今は、ホールディングスだけではなくて、連結全体でコーポレート人員・コーポレート機能を見て、業務の見直しや役割分担を進めています。
また、冒頭、いろいろな事業再編で異動が多かったとお話ししました。各事業会社からこの2年半での異動を可視化してみると、常にグループ内のあらゆる会社から会社へ異動しており、さらには組織再編によって異動した人、組織再編以外で異動した人、複数回異動した人によって、離職率が変わっていることが分かりました。今後、この分析をポートフォリオアロケーションに活かしていきたいと思っています。
まとめ
加藤:人的資本経営において一番重要なのは、全社戦略、事業戦略、人材戦略の紐づけだと思います。ここが私たちも非常に大変でしたし、今もなお大変です。弊社は12月決算ですが、そろそろ来期以降はどう紐づけていくか考えなければなりません。一回紐付けて終わりということではないと思います。
また、データによるPDCAのための整備も非常に重要です。KPIがしっかりとうまく設置できているのか、それが改善しているのかをデータを見ながら裏付けて、PDCAを回していくことが必要です。そして、そのモニタリングするKPIも、適正型/改善型、それぞれに短期/長期といった形で分けてモニタリングし、施策に落とし込んでいけるといいかと思っています。
そして人的資本経営は、縦割りではなく、経営陣全員がそれぞれの視点からオーバーラップ(重複)で取り組むべきものと考えます。当初は人的資本経営というと、どうしても人事マターだというイメージがありました。しかし、私が、ESGの観点から人的資本経営を考えているように、COOであれば、事業ポートフォリオの再編によってどう必要な人員スキルが変わるのか、CIO(Chief Investment Officer)であれば、M&Aでどういった人員が必要/不足するのか考えなければいけません。このように人的資本経営は、経営陣がオーバーラップしてみんなで考えるべきものだと思います。
最後に、この人的資本の本質は何かと考えた時に、社員一人ひとりに“一人の人として向き合う”ことではないかと私は感じています。企業に入ると、役職・役割といったフィルターを通して、社員や他の部署と接することになりがちです。しかし、これからの時代、一人ひとりの個のパフォーマンスをいかに最大化していくか、それをチームのパフォーマンスの最大化にどうやってつなげるかということを考える必要があります。私自身、CFOとしてではなく、一人の人として社員と向き合っていき、その上で役割や制度、ルールを考えていくべきなのではないかと思い、最後にメッセージとして加えさせていただきます。
私からのプレゼンテーション以上です。ご清聴ありがとうございました。
後半Q&Aコーナー
トラン:
加藤さんありがとうございます。手触り感ある内容で、非常に実践的な示唆にもたくさん富んでいたと率直に感じました。特に組織再編もあった中で、結構事業ポートフォリオもかなり整理されており、昨年の5月にマテリアリティを定められてからわずか1年ちょっとで、CxO全体を巻き込みながら、データに基づくPDCAを何度も回されたのは、すごいスピード感だなと思います。ここまでのスピード感というのは本当に素晴らしいなと思いましたので、今日会場にいらっしゃる皆さんにとってもどう様々なハードルを本当にアジャイルに乗り越えていけるかっていうところに関して、もう少し深掘って私からも質問したいと思っています。
(質問1)
トラン:
プレゼンテーションの後半の方で、データの統合とか技術的なチャレンジ・ハードルの部分は、かなりメンションされていたと思いますが、加藤さん以外の他のCxOや取締役を巻き込んでいく上で、組織的なチャレンジは特になかったのでしょうか?もし仮にあったとしたら、それをどのようにしてスピーディーに乗り越えていけたのか、ヒントがあれば是非お聞きしたいと思います。
加藤:
そうですね。組織的なハードルもたくさんありまして、まずはESG、そしてSDGsに繋げていくんだというこの取り組みを、CxO陣やボードメンバーを含めて全員が理解し、意味のあるものにしていかなければいけないと思っています。ただ単に、何かESGが流行ってきたから、それに合わせてマテリアリティ開示しよう、KPI開示しようということは意味がないと思っています。私たちにとってその中で何が重要で、どういう風に事業に結びついていくのかの紐づけをしながら、各取締役、CxO陣に説明していくことがまず難しかったです。あとは、人的資本経営のところに関して、これは人事マターだよねという考えが当初はやはりあって、マテリアリティを掲げてリスクや機会を洗い出した中で人事とコミュニケーションを重ねていきました。しかし、やはり人事だけでは解決できないことも当然ありますし、もっと経営陣として意思決定しなければいけないということも大きく出てきました。領域を超え、みんなを徐々に巻き込みながらやっていったというのが正直なところで、今もその辺りは苦労しています。
(質問2)
トラン:
年に何回かボードミーティングや経営会議があると思いますが、マテリアリティや人的資本経営を打ち立ててから、会議における人材戦略に関する議題の内容や質は、どう変化してきたと感じられますか?
加藤:
取締役会にて、マンスリーパフォーマンスレポートという業績のレポートを毎月私から報告していますが、そこにこの人的資本経営に紐づく人材関連のレポーティングが入りました。純粋にレポートというか、まさにパナリットさんのところからキャプチャーなどいろいろと活用させていただきながら、報告する内容が深まりました。また、ESGのステアリングコミッティ等も含めて、その会議で人的資本経営にかかわることを議論する回数自体が増えていきました。そして、先程のDE&I(ダイバーシティ、エクイティ & インクルージョン)なども含めてですが、さまざまな会議体で話されるようになってきたというのが、やはりこの1年間の大きな変化だと思っています。
なので、取締役会に関してはレポートもしますし、報告の頻度も3カ月に一回はするようにしていますが、それ以外のところでも色々な会議体で話されるようになってきたというのが大きな変化かなと思っています。
(質問3)
トラン:
そのレポートで登場する KPI(重要指標)には、例えば何がありますでしょうか?
加藤:
変革期にある弊社では、退職者と異動した社員のパフォーマンスを重視しています。ですので、どういった人たちが退職をしていくのか、職種や年次や部署などのさまざまな観点から見て、その退職者の傾向や原因を突き詰めています。また、異動した社員がどのようなパフォーマンスを出しているのか、異動後も高パフォーマーでいるのか退職してしまったかなどを見て、この変革にうまく対応できているのかどうか、この変革を乗り越えられるのかどうかを見ています。
トラン:
CFOである加藤さんが、そういったKPIをもとにちゃんとレポーティングして、そこから新たな論点を上げているところを見ると、まさに経営戦略と財務戦略と人事戦略が紐づいているなと感じました。
(質問4)
トラン:
ちょうど会場からご質問が来ましたが、人的資本経営の一連の取り組みについて、従業員に対する意義をどういうふうに説明して賛同を得たのでしょうか?
加藤:
全社員に賛同を得られているかというのは悩ましいところですが、グループのバリュー(5BEATS)のなかに、「一人一人が社長」を掲げています。そこでは、「3つの自立」(職業的自立、経済的自立、精神的自立)を重要視して経営をしてきています。事業規模として次のフェーズに行き、新しい働き方の模索を推奨する中でも、やはりそれぞれが自立してしっかりと人生を送っていってほしいという想いがあります。そのためのさまざまな制度設計であることも説明しています。これら「3つの自立」に基づき、日本国内どこで働いてもいいですよとか、その代わりしっかりとパフォーマンスを出してくださいねとか、副業もいいですよとか、ただしそこで得た知識をちゃんと還元してくださいね、といった具合です。当然それだけではもちろん全て伝わりきらないと思っていますし、私たちは事業会社を多数抱えていますので、ホールディングスのパーパスやバリューと、各社のパーパスやバリューや行動規範などとの紐づけを、各社の社長と個別に話し合いながら行っています。中には各社社長のみならず、部長レイヤーの社員たちが、さらにそこから自社のパーパスと自分自身のパーパスをどう紐づけていくべきなのか、イニシアチブをとって勉強会を開いてくれている方もいます。そういった形で徐々に広がっていってるのかなと思っていますので、当然ピボットに対する抵抗感や、働き方が変わっていくことに対する抵抗感はあったと思いますし、結果的に退職率(の上昇)につながった部分もあると思いますが、それを少しずつ今お話したような形で説明をしています。
(質問5)
トラン:
さっきちらっとデータで出ていた「実は異動していなかった社員の方が退職率高いんじゃないか」という点について、いま経営の皆さんでどのように認識されているのでしょうか?
加藤:
さまざまな見方があります。やはり広告事業からデジタルシフト事業に人が多く異動していくと、当然のことながらプロセス改善も同時に推進しないと1人当たりにかかる負荷が大きくなってしまったりとか、もしくは異動したかったのにできなかったために退職が増えるといった状況もあるのではないかと考えています。異動ができなくて、それでも頑張って踏ん張っていただいている方々に対して、どうやってインセンティブを設計していくかということも、実は組み入れ始めているところです。
(質問6)
トラン:
実際にマテリアリティを設定してみて、社内のステークホルダーからの見られ方だとか、あるいは社外のステークホルダーに対する価値還元については、どれぐらい進んでいるとお考えですか?
加藤:
社外のところは正直、まだこれからですね。社外からさまざまなステークホルダーをお招きして、社内に対して各種講演会をしてもらったりしていますが、私たち自身が社外へ発信していくものがまだまだ少ないと思っています。いわゆるIR的な情報開示の観点もそうですが、社外のステークホルダーだからは「せっかく有意義な取り組みを色々やっているのだから、もっと発表していきなさいよ」というお声をいただいています。将来的には統合報告書のようなものも視野に入れながら、足元でやっていることはまずはコーポレートサイトなどで開示していきたいと考えています。
(質問7)
トラン:
今回の組織再編で、新しく注力する事業へ異動する人材は、どんな選定方法ないし選定基準でやられたのでしょうか?
加藤:
はい、1つは既存事業や部署のそれぞれの職務要件の中で、「この人がやっていることはデジタルシフト事業だ」という風に定義した上で、異動してもらっています。もう1つは、弊社ではジョブポスティングという社内異動制度を設けておりまして、新しいデジタルシフト事業側の責任者が「こういうポストにこういう人材が欲しい」というものを定期的にポストして、そこに自ら応募して異動するケースもあります。また、数は少ないですけども「この人材はこの事業を立ち上げる上でも必要不可欠だから強制的に行ってもらいたい」と依頼する場合も中にはあります。
(質問8)
トラン:
経営計画の策定、予算の策定、要員計画の策定や、そのPDCAの核の部分において、パナリットはどんな活用余地があると思われますか?
加藤:
今まで私たちの会社は、それぞれのデータがそもそも統合されていなくて見えづらかったので、予算を策定する時もどういう費用対効果になっているのか、その数字がどこに跳ね返ってくるのかがなかなか不明瞭な状態でした。私は予算策定も管掌領域ですので、各社各部門から上がってくる予算に対して色々質問をしていくのですが、それに対する回答や定量的な説明は、相手方も難しいし、私自身も検証しづらい状況でした。
それが今回、さまざまなデータが繋がっていくことによって見やすくなっていっていますので、ぜひ各部門にもパナリットを使い、数字を分析しながら予算を作ってほしいなと思っています。また私側からすると、これを見ながら「もっとここは削減できるんじゃないの、ここが減るんじゃないの」ということが言えるようになりますので、採用計画、育成計画、研修にかかっている予算や、1人当たり売上や利益などの生産性指標もより最適化できると考えています。
(質問9)
トラン:
1年前に振り返ってみて「あの時こうしておけば良かったな」と思われることはありますか?
加藤:
良くも悪くもまず動こうっていうカルチャーですので、スピード感を速めていくという意味でさまざまな施策にチャレンジしたことはもちろん良かったと思いますが、プライオリティーは意識しても良かったと個人的には感じています。もっと予算を投下してやっても良かったようなものもありますし、順序的に先にやった方が良かったと思う施策もありました。
また ISO 視点で必要とされている項目は全てトラッキングできるようにし、全て開示していきたいとは思うのですが、それぞれの指標がどう影響し合っているのか、どの数字を上げていくと最終的には売上に跳ね返ってくるのか、新規事業の立ち上がりのスピードが速くなっていくのかなどを詰めていきたいと考えています。数字の外部への開示範囲も論点ですが、まずは少なくとも社内においては、数字の解釈や影響についてちゃんと理解した上で、適切なKPIを設定し、改善していくサイクルを確立させたいと思います。
トラン:
ありがとうございます。お時間になりましたので、ここら辺で会自体も締めさせていただければと思いますけれども、本当に加藤さん改めて今日は貴重なお話、ありがとうございました。本当に非常に実践的な内容で、多くの企業にとっても、明日から新たな次の一歩踏み出せるような内容だと思いますので、本当にありがとうございました。
加藤:
トランさん、こちらこそありがとうございました。